本読みの感想(ネタバレあり)を中心に、日々のことごとを。
皇太子、決心す(蒼路の旅人)
2007年01月18日 (木) | 編集 |
上橋菜穂子『蒼路の旅人』読了。
「旅人」とつくのは「守り人」シリーズの外伝だと思ってたけれど、並行する別シリーズと考えた方がいいようだ。

新ヨゴ皇国に迫る、戦争の影。
今までは、まだ「気配」だった。
多くの国々を呑み込んできた、南のタルシュ帝国。
でも、そうはいっても海の向こうの国だし、という薄い危機感。
ところが、とうとうチャグムの目の前で、牙をむこうとしている。

チャグムは皇太子だから、常に国のことを考えねばならない。
シュガやトーサのように後押ししてくれるもの、皇太子に国の未来を夢見る民草、すべてを背負って、ことにあたらねばならない。
理想や正義感を振りかざしても詮無いこと。
「私」を殺し、理性的であろうとし、策略を巡らし、戦略のために切り捨てることもいとわず、賢すぎず愚かすぎない駆け引きをする。
国の命運を一身に背負い、常に難しい選択をしなければいけない、チャグムの苦しみが、重たい。

それだけの世界を書き上げる、上橋さんの視野の広さに感服。
「守り人」「旅人」合わせて過去6冊で描かれてきた背景ももちろん含め、国と国の力関係、地形や気候やナユグの影響、政治的な人と人のしがらみ、文化・習慣・歴史・宗教の違い……あらゆることを熟考して築き上げられていく展開が素晴らしい。
もはや八方ふさがりと思われるチャグムに、ぎりぎりの活路を見いださせる仕掛けも。
わたしがチャグムだったら、まず間違いなく船に乗る前から失敗していたことだろう。


チャグムはまだ15歳の若者だ。
自由になりたいと切望する心と、父王に嫌われているという絶望感と、国のために我が身を供せねばという使命感とのせめぎ合いが、切ない。
まして、敵には圧倒的な力の差を見せつけられ、国の命運は自分次第という追いつめられた状況で。
しかし、追いつめられて、チャグムはますます聡明かつ勇敢ぶりを発揮する。
帝になどなりたくないと言い続けてきたチャグムだが、とうとう「上に立つ者」としての覚悟を決める。
敵の罠にはまり、相手の描いたシナリオに促されて、というのは皮肉だが(このあたりはかなりハラハラさせられた)、けして言いなりになるのではなく、「たったひとりででも、立ちふさがってみせる」という決意が、チャグムらしい。

希望は限りなくゼロに近い。
けれど、自分と、自分を信じてくれる人々を信じることで、チャグムは前に進む。
ああ、もう! 完結して欲しいようなして欲しくないような。
続きがとにかく気になってしかたがない。

思いこみをひっくり返す(アブダラと空飛ぶ絨毯)
2007年01月18日 (木) | 編集 |
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『アブダラと空飛ぶ絨毯』読了。
『魔法使いハウルと火の悪魔』の続編(「空中の城」シリーズ2作目)。

ブリティッシュなファンタジー世界はどこへやら、今回はアラビアンなファンタジー世界から始まる。
魔法の絨毯に、ジンニー(精霊)入りの瓶、王女をさらうジン(魔神)、砂漠の盗賊と、王道アイテム&キャラがぞろぞろ。
人々は、会話に美辞麗句をたっぷり盛り込むならわしがあり、もどかしいやら可笑しいやら。
「砂漠の王よ」「旅人の真珠たるお方」「知恵の大御所殿」「鋭敏なる嗅覚をお持ちの王子殿」「ラクダの群れの大将殿」「砂漠の詩人殿」「世迷い言の王者殿」……これ、すべてワンシーンの会話で、アブダラがある1人の絨毯売りに呼びかけた言葉(皮肉含む)。
二人称=「あなた」、なんて陳腐なことは言わない。
そういえば、むかし読んだ『千一夜物語』でも同じような美辞麗句だらけの会話だったっけ。
バザールの様子や、食べ物のメニュー、庭園のあり方もそうだが、最もアラビアンムードをつくり出しているのは、この会話。
うまいなあ。

愛しの王女を追って、アブダラはとうとうインガリー国(ハウルやソフィーの国)までたどり着く。
何をやってもイマイチうまくいかないアブダラだが、意外と順応力は高く、習慣の違いにわりと早く馴染んでいく。
つまり、会話はシンプルに!と。
(それでも、インガリー国の人々からすればまどろこっしいのだけれど)
このへんは、空想を膨らませることが得意なアブダラならではの柔軟さか。
押しが弱くて、人が良くて、空想がに逃げ込むのが好きなアブダラ。
けしてヒーローらしからぬ彼が、一途さゆえに危険に飛び込んでいくさまは、胸がすく。
ヒロイン役の王女も、けっしてヒロインの型にはまっていないところが愛らしい。
そういえば、ハウルも臆病男で、ソフィーは勝ち気な女性だった。
ダイアナ・ジョーンズさんは、弱い女が強い男に守られるという伝統的価値観をひっくり返すのがお好み、なのかな?

ところで、ハウルとソフィーはいつになったら出てくるの? とやきもきさせられる。
人々の話題には上っているのに、ちっとも姿を現さない。
が、最後の最後に種を明かされてみれば、ハウルもソフィーもカルシファーも、そしてジャスティン王子まで、ちゃーんと早くから活躍してました、というオチが秀逸。
それを知ってから、もう一度読めば、また別の楽しみも味わえることだろう。