本読みの感想(ネタバレあり)を中心に、日々のことごとを。
思うようにならない江戸の空気感が好きだ(しゃばけ)
2006年03月28日 (火) | 編集 |
畠中恵『しゃばけ』読了(1ヶ月くらい前)。

杉浦日向子さんが亡くなり、もうこれで江戸の空気感をもたらしてくれる人はいないのだと、淋しく思っていた。
ところがどっこい、ちゃんといた。
畠中恵さんの江戸描写は、杉浦さんと同じく、あたかも江戸に暮らしていた(る)人のよう。
実際に見て、肌で触れなければ得られないと思われるような現実感と、
日常のことだからとくに意識して書いたわけじゃないよ、とでも言うかのようなあっさりさ。
この心地よさ。
「思いついて江戸を舞台にしてみました」という薄っぺらさもなく、「めいっぱい想像して、江戸に思いを込めました(江戸浪漫)」という重さもない。
絶妙なバランス。

舞台は江戸。主人公は大店の若だんな。脇を固めるのは妖怪。
この組み合わせだけでも、ワクワクするものがあるが、
なんとも面白いのは、この若だんながひどく病弱なところだ。
彼は、ひとりでは何もできないと言ってもよいくらい、体が弱い。
だから、奉公人であり育ての兄やでもある妖の協力が欠かせない(他人には妖であることは明かされていない)。
親は大いに甘く、心配性。
あれは危ない、これは良くない、夏は暑い、冬は寒い、と言って、若だんなに何もさせようとはしない。
けれど彼は、今どきの若者のように、キレたりしない。
なぜなら、いつ死んでもおかしくないこの身を大事にしてくれる人々の愛情と恩義を、少々重たく感じながらもきちんと心得ているからだ。
だから悶々としながらも、今の自分にできる範囲で精一杯やろうとしている。

若だんなには、「健康」と「周囲の心配」という、障害がある。
妖といえども万能ではないし、人とはどこかずれた感覚をしていて、頼み事も思うように進まない。
江戸の世では、何をするにも今よりもずっと時間も手間も面倒もかかる。
そんな制限の中、若だんなには胸に秘める大それた計画があり、周囲では不穏な事件も勃発。
頭を悩ませるさまざまを、なんとか解決しなきゃならない。
「できることを精一杯」やって、少しずつ前進していくさまが面白く、とても好感を持てる。
なにやらとぼけた雰囲気を味わいながら、ミステリーの醍醐味も楽しめる。
そんな、二度おいしい作品だ。

天才×凡人×一般人(バッテリーIV)
2006年03月28日 (火) | 編集 |
あさのあつこ『バッテリーIV』読了(2ヶ月前に…)
さあ試合だー! と楽しみにしてページを開いたら、いきなり試合後から始まったので、ちょっと拍子抜けしましたよ。

天才vs凡人(豪はどこまで巧についていけるのか)の構造がより明確に。
なにしろ、「天才・凡人」ペアがもう一組増えたから。
二組の「天才vs凡人」、ひとつの歴史は短く、もうひとつは長い。
はたしてそこに、どんな差が出るのか。
次の対決に期待したい。

そして、乱入してきたのが「一般人」代表、吉貞。
カッコイイから、もてるから、野球をやるんだ、という。
原田も永倉も、なんでそんなに深刻なんだよ? というある意味ノーテンキで明るいキャラ。
実は、前巻まではウルサイやつだなーと、あまり注目していなかった。
まあ、こういうお調子者キャラもいないと、どんどん重苦しくなりそうだしね、くらいに思っていた。
それがここへきて、「なんで野球をやるの?」という命題にストレートに絡んできた。
巧や豪は、まるで野球に命を捧げているかのよう。
でも、多くの部員は、「楽しいから、好きだから、やりたいから、(ときには成績のため)」野球をするのであって、そんなに重たく考えていない。
それでどこが悪いわけ?
と、身軽に飛び込んできた。
そりゃそうだ。たかが中学生の部活だ。そんな深刻なヤツばかりだったらおかしい。
どうかすると、神経削ってまで野球に打ち込んでいる巧や豪ばかりエライような錯覚を覚えそうだけれど、吉貞のような「素直」なのだって、それでいいんだもの。
というわけで、わたしの中では吉貞株急上昇である。

この巻は、巧が暴れない。ジコチューの権化みたいなヤツなのに、おとなしい。
チームメイトとじゃれあうシーンまであって、なんだか丸くなったみたい。
そのせいもあって、ちょっと物足りなさも感じる。
全体に、あまりストーリーは進まないし。
でも、実は物語全体では大きな転換期である。
「個」から「チーム」へと、テーマが移行してきたからだ。
今まで、「原田巧」という天才だけどわがままなヤツ、という「個」が中心だった。
ところが、ここへきて豪、吉貞や東谷に沢口ら1年生、野々村キャプテン、先輩ピッチャーの高槻、海音寺前キャプテン、顧問のオトムライまで巻き込んで、「新田東中野球部」という「チーム」の変化が問われ始めてきた。

そしてもちろん、ライバルチームの存在も大きい。
天才と、凡人と、一般人の、それぞれの活躍と、相互作用がどうでるか、楽しみだ。